10年前。
母の入所できる施設がみつからず、
ほんのわずかの蓄えを切り崩して、
老健への支払いを続けていましたが、
恥ずかしながら、それも底をつきそうになりました。
そのぐらいの負担だったんです。

教育ローンも残っている、
娘は私立の大学に通っている。
フリーランスの私は母の世話で仕事をセーブせざるを得ない。
仕事をしていたら、
病院から、役所からの急な呼び出しに
すぐに対応できません。

どんどん減っていく預金の残高に、
気持ちはふさぐ一方。
そして、もうこれ以上は、どこかで借りるしかない
というところまで追い詰められました。

恥を忍んで、意を決して、福祉の窓口の方にそう言ったら、
「これは絶対というわけではなく提案ですが……」
前置きした上で
・すでに社会人になっていた息子から仕送りを受ける
・娘に大学を辞めさせる
・借りられるなら借りる
を提案されました。

体中が、怒りと、情けなさでパンパンに膨れ上がってくるのがわかりました。
私はたった一人の娘だからしかたない、
でも、なんで孫にあたる子どもたちまで巻き添えにしようというのか。

そして、こう言いました。

「それなら、母を捨てさせてください。
育児放棄、という手段があるなら、
親の介護を放棄する方法はないのですか?
あるなら教えてください。
母のために息子や娘まで巻き込むなんて
そんなことできません! 
あなたはできるんですか!?」
窓口の職員さんに食ってかかりました。

その方は、苦い顔をするだけでした。

私は大学生の頃から、
奨学金とアルバイトから、
母が滞納していた保険料を払っていました。
それを払わないと、私も医療が受けられなかったからです。
国立だったので、学費と寮費は全額免除してもらって、
奨学金とわずかなアルバイトがあったので、
なんとか卒業できました。

でも、そもそも、母が無年金だったのは、
私を育てているときに年金なんか払えなかったからです。
貯えも、生命保険もないのは、
母一人、子一人の生活で、そんな余裕がなかったからです。

まあ、クセのある母でしたので、
それだけが理由ではないですけども……(^-^;

入院を期に親しい友人と、
病院のソーシャルワーカーの方が
すぐに世帯を分離するようにアドバイスしてくれました。
でも、たとえ世帯分離の届をしても、
住民票では同住所。

別住所にして生活保護認定を受けない限り、
要介護5、24時間見守りが必要、という
母の面倒を見てくれる施設には、
月に10万円をゆうに超える費用がかかりました。

そのほかに医療費。
母は定期的な検査と投薬が必要。
体調は常に不安定でした。
それなのに、
「万一入院となったときには個室でもいい」
という事項に合意しないと、
老健への入所もできなかったんです。
同意のハンコを押さないと、
また施設探しが振り出しに戻るんです。

で、当時の母はしょっちゅう膀胱炎で高熱を出し、
その場合は即入院となり、
個室入院は一日に数万円。
他にも諸費用。
10日の入院で数十万円が飛んでいきます。

役所の人はまた、こう言いました
「せめて、お母様がアパートなどで独居されていたら、
話は違うんですけどねえ……」

そんな雲をつかむような話。

要介護5 自分で何もできない母のために、
アパートを借りて別居する?
常識的に考えられない! と私は思いました。
そもそも貸してくれる家主さんがいる?
この大変な時に、さらに物件探しが加わり、
もしも物件が決まったら、
それに伴う諸手続きも始まる。
調査が入るので、
「母が独居をしている」という体裁を整えるために
電気ガスを引き、最低限の生活用品を運ぶ。
費用のかかることばかりです。

それよりなにより
母が一人暮らしができる、と嘘をついて、
そんな手続きをするなんてこと、
非現実的だと思いました。

でも、これは役所の職員の方がくれた、
ものすごいヒントだったんです。
私はそれに気づきもしませんでしたが……

↑ もっと分かりやすく言ってほしかった

もうあと一回だけ、続きます。